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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

北は東京近郊の板橋かけて、南は相模厚木辺まで蔓延していて、その土地土地では旧家であり豪家である実家の親族の代表者は悉く集っている。

その中には年々巨万の地代を挙げながら、代々の慣習によって中学卒業程度で家督を護らせられている壮年者もある。

横浜開港時代に土地開発に力を尽し、儒学と俳諧にも深い造詣を持ちながら一向世に知られず、その子としてただ老獪の一手だけを処世の金科玉条として資産を増殖さしている老爺もある。

蓄妾に精力をスポイルして家産の安全を図っている地方紳士もある。

だが、やはり、ここにも美に関るものは附いて離れなかった。在々所々のそれ等の家に何々小町とか何々乙姫とか呼ばれる娘は随分生れた。しかし、それが縁付くとなると、草莽の中に鄙び、多産に疲れ、ただどこそこのお婆さんの名に於ていつの間にか生を消して行く。それはいかに、美しいもの好きの家霊をして力を落させ歎かしめたことであろう。

葬儀は済んだ。父に身近かの肉親親類たちだけが棺に付添うて墓地に向った。わたくしはここの場面をも悉しい説明することを省く。わたくしは、ただ父の遺骸を埋め終ってから、逸作がわたくしの母の墓前に永い間額づき合掌して何事かを語るが如く祈るが如くしつつあるのを見て胸が熱くなるのを感じたことを記す。