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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

母はわたくしを十四五の歳になるまで、この子はいじらしいところが退かぬ子だといって抱き寝をして呉れた。そして逸作はこの母により逸早く許しを与えられることによってわたくしを懐にし得た。放蕩児の名を冒しても母がその最愛の長女を与えたことを逸作はどんなに徳としたことであろう。わたくしはただ裸子のように世の中のたつきも知らず懐より懐へ乳房を探るようにして移って来た。その生みの母と、育ての父のような逸作と、二人はいまわたくしに就て何事を語りつつあるのであろうか。

わたくしはその間に、妹のわたくしを偏愛して男の気ならば友人の手紙さえ取上げて見せなかった文学熱心の兄の墓に詣で、一人の弟と一人の妹の墓にも花と香花をわけた。

その弟は、学校を出て船に努めるようになり、乗船中、海の色の恍惚に牽かれて、海の底に趨った。

その妹は、たまさか姉に遇うても涙よりしか懐かしさを語り得ないような内気な娘であった。生よりも死の床を幾倍か身に相応わしいものに思い做して、うれしそうに病み死んだ。

風は止んだ。多摩川の川づらには狭霧が立ち籠め生あたたかくたそがれて来た。ほろほろと散る墓畔の桜。