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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

わたくしが臆しながら、先夜の女中の箱屋がかの女に惨たらしくした顛末に就て遠廻しに訊ねかけると、雛妓は察して「あんなこと、しょっちゅうよ。その代り、こっちだって、ときどき絞ってやるから、負けちゃいないわ」

と言下にわたくしの懸念を解いた。

わたくしが安心もし、張合抜けもしたような様子を見て取り、雛妓は、ここが言出すによき機会か、ただしは未だしきかと、大きい袂の袖口を荒掴みにして尋常科の女生徒の運針の稽古のようなことをしながら考え廻らしていたらしいが、次にこれだけ言った。

「あんなことなんにも辛いことないけど――」

あとは謎にして俯向き、鼻を二つ三つ啜った。逸作はひょんな顔をした。

わたくしは、わたくしの気の弱い弱味に付け込まれて、何か小娘に罠を構えられたような嫌気もしたが、行きがかりの情勢で次を訊かないではいられなかった。

「他に何か辛いことあるの。言ってごらんなさいな。あたし聴いてあげますよ」

すると雛妓は殆ど生娘の様子に還り、もじもじしていたが、

「奥さんにお目にかかってから、また、いろいろな雑誌の口絵の花嫁や新家庭の写真を見たりしてあたし今に堅気のお嫁さんになり度くなったの。