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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

こうは見て来るものの、しかし、この衣裳に覆われた雛妓の中身も決して衣裳に負けているものではなかった。わたくしは襟元から顔を見上げて行く。

永遠に人目に触れずしてかつ降り、かつ消えてはまた降り積む、あの北地の奥のしら雪のように、その白さには、その果敢なさの為めに却って弛めようもない究極の勁い張りがあった。つまんだ程の顎尖から、丸い顔の半へかけて、人をたばかって、人は寧ろそのたばかられることを歓ぶような、上質の蠱惑の影が控目にさし覗いている。澄していても何となく微笑の俤があるのは、豊かだがういういしい朱の唇が、やや上弦の月に傾いているせいでもあろうか。それは微笑であるが、しかし、微笑以前の微笑である。

鼻稜はやや顔面全体に対して負けていた。けれどもかかる小娘が今更に、女だてら、あの胸悪い権力や精力をこの人間の中心の目標物に於て象徴せずとも世は過ごして行けそうに思われる。雛妓のそれは愛くるしく親しみ深いものに見えた。

眼よ。西欧の詩人はこれを形容して星という。東亜の詩人は青蓮に譬える。一々の諱は汝の附くるに任せる。希くばその実を逸脱せざらんことを。わたくしの観る如くば、それは真夏の際の湖水である。