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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
二つが一々主峯の影を濃くひたして空もろ共に凝っている。けれども秋のように冷かではない。見よ、眄視、流目の間に艶やかな煙霞の気が長い睫毛を連ねて人に匂いかかることを。
眉へ来て、わたくしは、はたと息詰まる気がする。それは左右から迫り過ぎていて、その上、型を当てて描いたもののように濃く整い過ぎている。何となく薄命を想わせる眉であった。額も美しいが狭まっていた。
きょうは、髪の前をちょっとカールして、水髪のように捌いた洋髪に結っていた。
心なしか、わたくしが、父の通夜明けの春の宵に不忍の蓮中庵ではじめて会った雛妓かの子とは、殆ど見違えるほど身体にしなやかな肉の力が盛り上り、年頃近い本然の艶めきが、坐っているだけの物腰にも紛飾を透けて浸潤んでいる。わたくしは思う、これは商売女のいろ気ではない。雛妓はわたくしに会ってから、ふとした弾みで女の歎きを覚え、生の憂愁を味い出したのではあるまいか。女は憂いを持つことによってのみ真のいろ気が出る。雛妓はいま将に生娘の情に還りつつあるのではあるまいか。わたくしは、と見こう見して、ときどきは、その美しさに四辺を忘れ、青畳ごと、雛妓とわたくしはいつの時世いずくの果とも知らず、たった二人きりで揺蕩と漂い歩く気持をさせられていた。