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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
「というと」と逸作は問い返したが、すぐ彼のカンを働かして、
「思い切って、うちで落籍でもしちまおうと言うのか」
それから眼瞼を二つ三つうち合わして分別を纏めていたが、
「よかろう。俺がおまえに娘を一人生ませなかった詫だと思えば何んでもない。仕儀によったらそれをやろう」
逸作は、こういう桁外れの企てには興味さえ湧かす男であった。「外遊を一年も延ばしたらその位の金は生み出せる」
二人の腹はそう決めて、わたくしたちは蓮中庵へ行ってもう一度雛妓に会ってみることにした。そのまえ、念の為めかの女が教えて置いた抱え主の芸妓家へ電話をかけてみる用意を怠らなかった。すると、雛妓は病気だといって実家へ帰ったという。その実家を訊きただして手紙を出してみると、移転先不明の附箋が附いて返って来た。
しかし、わたくしは決して想いを絶たなかった。あれほど契った娘には、いつかどこかで必ず廻り合える気がして仕方がないのであった。わたくしは、その想いの糸を片手に持ちながら、父の死以来、わたくしの肩の荷にかかっている大役を如何なる方図によって進めるかの問題に頭を費していた。
若さと家霊の表現。