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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

しかし、安二郎もまた懐をいためなかった。月々定ってお君に渡す台所用の金の中から、豹一の学資を出さすことにした。お君はそれでやりくりに困り、自分の頭のものや着物を質にいれたり、近所の人に三円五円と金を借りたりしなければならなかった。

中学生の豹一は自分には許嫁があるのだと言い触らした。それによって同級のもの達を羨ませ、自分に箔をつけようと思ったのである。勿論、彼はお兼が色の黒い二番目の娘を彼に妻わそうとひそかに思っていることなど知らなかった。もし知っていたら、口腐っても言わなかったであろう。自分というものが常に人から辱められ軽蔑さるべき人間であると誇張して考える癖のあった彼は、先ず何よりも自分に箔をつけなければ安心出来ないのだった。彼は周囲を見渡してみて誰も彼も頭の悪い少年たちであると分ると、ほっとするのである。しかし自分の頭の良さにはひどく自信がなかった。だから、大して苦労もせずに首席になれた時、之は何かの間違いだろうと思うのだった。クラスの者は彼の頭脳に敬服し怖れもなしていたのだが、人から敬服されるなどということは彼の与り知らぬところであったから、自分が首席である事を絶えずクラスの者たちの頭に想い浮ばせる必要があった。