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あめしょうしょう

雨瀟瀟・雪解 他七篇

永井 荷風

永井荷風『雨瀟瀟・雪解 他七篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:雨瀟瀟、雪解、榎物語、監獄署の裏、散柳窓夕栄、寐顔、ひかげの花、勲章。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,414 字 · 289 页

青空文庫

」

「じゃア何になってもそう面白いことはないのね。どうもお世話さまでした。」

「お礼は後から頂戴に行きますよ。」

「いらッしゃいよ。ドーナツがあるわ。お茶を入れるから。」

女が立去ると、間もなく中島は郵便局の通帳を懐中にして階下へ降りた。階下は小売商店の立続いた芝桜川町の裏通に面して、間口三間ほど明放ちにした硝子店で、家の半分は板硝子を置いた土間になっている。口髭を生した五十年配の主人に出ッ歯の女房、小僧代りに働いている十四、五の男の子の三人暮らし。梯子段の下の六畳で、丁度昼飯の茶ぶ台を囲んでいる処を、中島は御免なさいと言いながら通りぬけて、台処の側の出入口から路地づたいに、やがて表の通を電車のある方へと歩いて行った。お千代が貯金をしている郵便局は麻布六本木の阪下にある谷町の局である。それはこの春桜川町へ引移るまで一年あまり、その近くの横町に間借をしていたことがあったからで。ところが或日お千代が筋向の格子戸造りの貸家に引越して来た主人らしい男と、横町を隔てて両方の二階から顔を見合せると、その男には既に二、三回、お千代は池の端の待合で出会ったことがあるというので、もし近処のものにでも秘密の身の上をしゃべられでもしたらと、万一の事を心配して、早速現在の貸間を捜して引移ったわけである。