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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
もう六十を幾つか越した――よく植民地にみる浮世の苦を、なめつくした感じの、然しまだしんにはどっか強そうな所のある、この老婆は、警察の憚い旦那方の前で、小さくなって何を聞いてもおどおどして自分の思っている事の半分も、口に出せなかった。
然し警部は皆の聞きのがしていた二三の点をあきらかにする事が出来た。
それはあの日、あさが書庫に、運んだ薪の量と、何時頃、ストーブに火が入れられたかという事、ランプの石油がその油壺に充分に入れられてあったという事なのであった。
あさ婆さんが去って終うと、
「うむ……」とため息して警部は頭をふった。
「何かありましたか?」と署長が聞いた。
「何んにもない」と警部はそっけなく言ったが、今度は検事に向って「久保田さん、指紋の分類は出来ましたね?」
「ああ、やらしておいたが、警視庁の鑑識課みたいには行かんよ。ご期待にそうかどうか」
「いややって頂けば結構です。あとで署に帰って拝見しましょう……次に伊東でも訊問しようか……一寸呼んでくれませんか」
伊東は四角なあごの張ったマユの濃い潮焼けのした、四十台の体のがっしりした、みるからに船乗りらしい男であった。