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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

争いした事も金の事で「自分をわざわざ東京からいそがしい中を呼んでおいて、今になって売らんの金高が合わないのといい出しましたのです。私にすれば百冊の本より、久三さんの持っていた土佐光行の『極楽寺縁起』が欲しかったのです。それに、昔の事までいい立てられましたので……」というのだった。

「伊東さんの便所から帰ったのは知っています。然しその間の時間は三分のものやら三十分のものやら、一睡りしたらしいので判りません」

「一番最後に、あの書庫に入ったのは、山村さんだろうと思います」と述べている。

いつの間にか、日は暮れて、洋燈に火が入れられていた。人々は疲れあぐんだ態で煙草だけを、やけにあげていた。

五十嵐の訊問が終ると、田名網警部はやっと腰をあげた。それから伊東、五十嵐のいる部屋を一応みて、望月の部屋に入った。そして暫く調べていたが、ふと警部は和服の一人に、

「さっき望月はオーバーを着て行ったろうね」と聞いた。

「いいえ、着て行きませんでした。暖かったし急いでいましたので」

「え! 着て行かなかった? うむ」と警部は何か考えていたが、急に勝手元の方にずかずかと入って行って、夕食の支度をしていたあさに、