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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

旧き代の富貴、栄耀の日ごとに毀たれ焼かれて参るのを見るにつけ、一掬哀惜の涙を禁めえぬそのひまには、おのずからこの無慚な乱れを統べる底の力が見きわめたい、せめて命のある間にその見知らぬ力の実相をこの眼で見たい、その力のはたらきから新しい美のいのちを汲みとりたい……このような大それた身の程しらずの野心も、むくむくと頭をもたげて参ります。一身の浮き沈みを放下して、そのような眼であらためて世の様を眺めわたしますと、何かこう暗い塗籠から表へ出た時のように眼が冴え冴えとして、あの建武の昔二条河原の落書とやらに申す下尅上する成出者の姿も、その心根の賤しさをもって一概に見どころなき者と貶しめなみする心持にもなれなくなります。今までは只おぞましい怖しいとのみ思っておりました足軽衆の乱波も、土一揆衆の乱妨も檀林巨刹の炎上も、おのずと別の眼で眺めるようになって参ります。まことに吾ながら呆れるような心の移り変りでございました。……

その間にも戦さの成行きは日に細川方が振わず、勢を得た山名方は九月朔日ついに土御門万里の小路の三宝院に火をかけて、ここの陣所を奪いとり、愈々戦火は内裏にも室町殿にも及ぼう勢となりました。