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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

そのような不吉な兆しに心を暗くしながらも、なおもお跡を尋ねてその日その日を過ごしておりますうち、やがて十一月の声を聞いて二三日がほどを経ました頃でございます。わたくしは今出川の大路を東へ、橋を越して尚もさ迷って参りますうち、地獄谷への坂道にやがて掛ろうというあたりで、のそりのそりと前を歩んで参る僧形の肩つきが、なんと松王様に生き写しではございませんか。もしやとお声をかけてみますと、振向かれたお顔にやはり間違いはございませんでした。やれ嬉しやとわたくしは走せ寄りまして、お怨みも御祝著も涙のうちでございます。「いや許せ許せ。俺が悪かったよ」と相変らずの御豁達なお口振りで、「俺はあれからこっち、この谷奥の庵に住んでいる。真蘂和尚と一緒だよ。地獄谷に真蘂とは、これは差向き落首の種になりそうな。あの狸和尚、一思いに火の中へとは考えたが、やっぱり肩に背負って逃げだして、あとから瑞仙殿に散々に笑われたわい。まあこの辺が俺のよい所かも知れん」などと早速の御冗談が出ます。まあ少し歩きながら話そうとの仰せで、わたくしの差上げました御消息ぶみ七八通を、片はしより披かれてお眼を走らせながら、坂を足早に登って行かれます。