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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

成程あの男は奸物だ、淫乱だ、私心もある、猿智慧もある。それに俺としても家督を追われた怨みがある、親の仇などと旧弊な言掛りも附けようと思えば附けられよう。だがこの男も結局は俺の心を掻き立てては呉れぬ。小さいのだ、下らぬのだ。あれほどの野心家なら、どこの城どこの寺の隅にも一人や二人は巣喰っておる。それでは蔭凉軒はどうだ。世間ではあの老人が義政公を風流讌楽に唆かし、その隙にまぎれて甘い毒汁を公の耳へ注ぎ込んだ張本人のように言う。赤入道(山名宗全)なんぞは、とり分けて蔭凉の生涯失わるべしなどと、わざわざ公方に念を押しおる。それほどに憎らしいか、それほどに怖ろしいか。俺はあの老人とこれで丸六年のあいだ一緒に暮して来たが、唯の詩の好きな小心翼々たる坊主だ。もそっと詩の上手なあの手合は五山の間にごろごろしておる。あれを奸悪だなど言うのは、奸悪の牙を磨く機縁に恵まれぬ輩の所詮は繰り言にしか過ぎん。ではそんな詰らん老人をなぜ背負って火の中を逃げた。孟子は何とやらの情と言ったではないか。俺の知った事ではない。……

「とするとこの両名の言うなりになった公方が悪いということになる。