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ゆきま

雪間

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页

青空文庫

あなたの家来でも奴隷でもないんだから、こちらの都合でアチコチするのはよしたらどう」

「お前さんのいいように……滋野といえば、今日は妙だったよ。三番のグリーンで、どうしてもアプローチができないのだ。身体のぐあいでも悪いのかな」

「どうしたのかしら。ここのところ久しく逢わないから知らないわ」

さまざまな洋酒の瓶や水差やタンブラーを、小間使が二人がかりで小さなバアの引越しほど持ちだしてきて卓の上にならべた。

「相当なライブラリーですね。キルシュ、デラメラ、キャンティ……これはペルノオ以前の本物のアブサントだ。めずらしいものがある」

安芸子は茄子紺の地に薊を白く抜いたシュミジェの長い裾をつまみながら二人の間に割りこんでくると、

「伊沢さんもアブサントの組なの。この笠原のじいちゃんもそうなの。寝酒というんですか、これを飲んで豚みたいに眠りこけるのが、この世の楽しみなんだって……伊沢さん、お手際なところをお目にかけましょうか」

三分の一ほどアブサントを注いだ脚付のグラスの縁に、ナイフをわたして角砂糖を一つ載せ、それがすこしずつ溶けこむようにゆるゆると水差の水を注いだ。