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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
「おっしゃるとおりです。すぐ解消しましたが」
「香世子が死んでから? あたしなんかが、こんなことをいうのはよけいなんだけど、たった六年くらいでおやめにするくらいなら、あんなセンチメンタルな誓いをたてて、香世子に無駄な希望を与えなかったほうがよかったの」
「センチメンタルだと思わない」
「香世子は六年のあいだ、たまりたまった思いを抱えて、精いっぱいの気持で、あなたのところへ飛んで行ったの。あなたの胸にさえ縋りつけばいいのだと思って……香世子にとって、白川さんは神のようなものなんだから、行きさえすれば救われるのだと、すこしも疑わずに……」
「その辺でよかろう。そのことについては、香世子の霊とも、よく話したつもりだ」
「女が苦しんでいるとき、ただひとつの救いは、無限にゆるす男の寛容だけだということを、あなたは知っているかしら? 慰めも、同情も、いたわりも、そんなものはなにもいらない。飛びこんでさえ行けば、朝だろうと夜中だろうと、いつでも門をあけて迎い入れてくれる広い心と胸……つまり、神のようなものね。女の幸福ってのは、そういうものを、たしかに一つ持っているという、ゆるがぬ自信のことなの。