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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
救急車で聖路加へ運ばれ、意識不明のまま二十五日の払暁まで保っていたが、間もなく苦しみだし、七時ごろ息をひきとった。臨終に、麻布市兵衛町、白川幸次郎の妻と、はっきり告知したと係官が白川につたえた。
「白川幸次郎の妻」の一件は、二宮に知らせずに無事におさめたが、臨終の告知は、息苦しい重石になって心のなかに残った。香世子との交際は、香世子が二宮忠平と結婚する以前からのことで、その間に、なにがしの想いがあったのだが、どちらの側でも、最後まで告白といったようなことはしなかった。
白川幸次郎が死んだ香世子の霊と交遊するように……というよりは、熱烈な霊愛に耽けるようになったのは、そういうことからであった。
肉体のなかに、魂が宿っている。ひとが死ぬと、魂は肉体からぬけだして、次の世界へ行く。
魂がいまの肉体に宿る前は、前世にいたので、この世、つぎの世、その先の世と、四世にわたって活動するが、方法によっては、死後の世界から現世へ連れ戻すことができる。
幽霊などという蒙昧な存在ではない。心霊電子ともいわれる高級なやつで、幽霊のように、じぶんからヒョコヒョコ出てくるような軽率な振舞いはしない。