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でんきぶろのかいしじけん
電気風呂の怪死事件
海野 十三
「新青年」博文館、1928(昭和3)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,788 字 · 34 页
が、その時、男湯の方から主人の声が聴こえて来た。
「おい、早く蒲団を持って来い。おい、居ないか、由蔵、由蔵!」
女房は擾乱した頭で、裏口の扉に錠をかけると再び男湯の流し場へ駆けつけた。
陽吉の身体が上ったものらしく、其処では色んな人々が立ち騒いでいた。寒さも忘れ、恥部を隠す余裕も持てない数人の浴客、それに椿事と知って駆けつけて来た近所の人々や、通行人らしい見知らぬ顔の男達が、或は足袋を濡らしたまま、或は裾をまくったままで、わいわいと湯槽を取囲んでいた。
「おい、早く蒲団を持って来ないか。由蔵はどうしたんだ、いったいあ奴は何処へ行っちまったんだ?」
「あたしゃ知らないよ。交番へでも駆けてったんじゃ、ないかね?」
「そんな筈はない。もう交番の旦那は夙くに見えてるんだ。由蔵に訊きたいことがあるって、待ってるんじゃないか。ええ、それより早く蒲団を持って来いというに――」
いずれもむしょうに昂奮した口調で、こんなことを応酬したのち、女房は返事も口の中でして奥の間へ飛び込んだ。押入から蒲団を曳きずり出すと、力一杯それを抱えて釜場の方へ引返して来た。と、其処にも男湯の方を覗き込んでいる近所の若衆が二三人立っていた。