轻松读懂日语经典作品
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きりのなか
霧の中
豊島 与志雄
――「正夫の世界」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页
その紙の上に掌を差出しておくと、紙が持上って、掌にすいついてくる。それを、精神とか心霊とかの何かにしてしまうんだ。普通の紙じゃあ出来やしないよ。」
「出来そうだがなあ。」
「出来るもんか。出来るならやってごらんよ。だが、そんなこと、君のお父さんはよく知ってたんだよ。知ってながら、普通の紙でやってみた、そこんところがおかしいんだ。もっとも、初めから少しへんだったようだけれど……。」
或るカフェーの奥の室だ。二階と一階とが普通の広間――といっても狭いのだ――になっていて、二階の奥、一階のちょっとした調理場の真上のところに、小さな室が一つあった。この前の経営者、多分はマダムか何かの、寝室ででもあったのだろうが、今では、新たな主人の実験室ともなり応接室ともなっている。五十年配の独身者で、すばらしい珍奇な飲物を拵えるという念願をもっていて、外国の都会にならいくらもいそうだが、日本ではちょっと変ってる男だ。甘いのや辛いのや痛烈なのや、怪しげなカクテルを友人に試飲さしては喜んでいる。そしてなお、アマチュア・マジシァン・クラブの会員で、カクテルよりもこの方が腕前は確からしい。