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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
本宅、つまりは普通蕃屋と呼ばれる小舎は、謂うところの蕃社に在って、部落を形づくっている。しかし、耕作小舎は寂しい山合いにぽつねんと独り佇んで、他の視界に隔絶している。しかも、霧の多いこの山地では、小さな小舎は全く霧のなかに閉ざされている場合が多い。謀議をこらすのには絶好なのである。
モーナルーダオは前記の三人と毎日のようにこの耕作小舎に集っては、暴動を起すべき時期、順序、銃器の入手方法、料食の貯蔵法など、巨細にわたって、計画を樹てて行った。
また一方彼は出草を望んでいる者、内地人に反感を抱いている者、そういう自分の腹心たり得る条件を具えている者を探しだしては、克明に秘密に、計画を打ちあけて行った。
その頃霧社には前記の三人ばかりでなく、彼等に類似した事情に在る者――つまりは首を伐って運命の転換を計らない限り、蕃社生活上、身の破滅になると自ら考える者が実に多く、無数と言っていい位にいた。恐らく、日本の理蕃政策は著々成功して、彼らの素朴な野性は漸く文化と称するものの前に、屈服と衰弱とを余儀なくされている。民族的な兇暴性や原始性やは、謂わば生理的に女性としての機能をようやく喪わんとする初老の婦人の活力と同じに、既に絶点から下降し始めている。