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きりのばんしゃ

霧の蕃社

中村 地平

「文学界」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页

青空文庫

なかに避難した女子供の大部分もつづいて侵入してきた蕃人たちに虐殺の憂き目をみたのである。

新原校長夫人は屍体のなかに埋れて、うつ伏せになり、血を浴びて寝ていたが、そのことで蕃人の眼をまぬがれることができた。奇蹟的に命が助ったのである。しかし、傍らに寝ていた子供が脚を動かしたことによって、引きずりだされ殺されたときも、声をたてることもできない苦しさであった。

便所や、縁の下に隠れた、ごく僅かな女や子供たちは危く難をのがれることができた。しかし、戸外の竹藪に隠れた者のなかには、蕃害は避け得たが、恙虫に刺されて命を落した者もいる。犠牲者の総数は内地人百三十四名、本島人二名の多きに達した。

殺された内地人の殆んど全部は僻遠の山間に在って、楽み少く、僅かに運動会の開催に胸とどろかせていた気の毒な人たちである。

公学校のグラウンドで行われた惨劇は約一時間ばかり続いたが、その間兇蕃中の別働隊五十名は約二丁の距離に在る分署を襲撃し、小銃、弾薬を掠奪、建物を焼きはらって凱歌をあげた。

一方、運動会場を脱出した吉川視学は、小笠原郡守をその背に負って、山径を駈け降りた。