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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
この悲愴な決意を聞くと、蕃婦たちもまた自分たちの身の処置に就て相談し合った。結果は夫や兄弟あるいは愛児の首途を激励するために、一同うちそろって付近の山林で縊死することになった。マヘボ社蕃婦の全部、及びボアルン社蕃婦の一部がこれに参加した。
蕃婦たちが揃って自害したことは、敵地に偵察に赴いた味方蕃タウツア社蕃人がもたらした報告によって、討伐隊にもわかった。討伐隊はその壮絶な風景を思い浮かべて感動するとともに、敵方の決意が容易でないことを知ったのである。
歩兵部隊を第一線に、警察隊の協力をもって、いよいよ総攻撃を決行する日、三十一日。この日は朝来より氷雨降りそぼち、遠い峰々は黒い、重い山雲のなかにまったく姿を隠していた。僅かに近い山々が煙ったような水蒸気のなかに呆んやりと姿を現わしているのにすぎない。午前八時四十五分、先ず山砲の射撃は始った。また、歩兵部隊の一部は退路を塞ぐために、鉄線橋(架り橋)を切断した。砲声は秋雨をついて山地一帯にとどろきわたり、ロードフ、ホウゴウ、スーク、マヘボ、タイザン、カウツク等の蕃社は相ついで火災を起し、高地一帯凄愴の気に充ち満ちた。