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きりをけすはなし

霧を消す話

中谷 宇吉郎

「思想」1945(昭和20)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,903 字 · 16 页

青空文庫

そして権力と科学とはその本性上両立し得ないものである。それが両立する場合はむしろ例外と言っていい。それでこの第一の条件が既に非常に困難な条件である。科学の本質を知るというのは、科学は魔術でないことを心得ることである。「そんなに沢山の石油を使えば、霧が消えるのは当り前だ。それならば何も学者に頼むことはない」という種類の言葉が、こういう場合にとかく出易いのである。

資材も使わず、労力もあまりかけないで、何かあっというような物を作ってもらいたいという希望が案外瀰漫しているようである。何か呪文を唱えるか、「聖の石」みたような薬をちょっぴり使って、霧がからりと霽れるような方法を科学者に求めてはいけない。そういうことが有り得ないというのが科学なのである。

第二に英国のこの例の中で注目すべきことは、チャーチルが自国の科学者を深く信用している点である。フンカイン等が採用したこの滑走路の周辺を加熱して霧を霽らすという方法は、現代の科学の知識では、最良の方法であると思われる。霧の本態については、実はまだわからない神秘な疑問が少し残っている。その謎が全部解ければ、何かもっと巧い方法が出て来るかもしれない。