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『せいきゅうざっき』をよむ

『青丘雑記』を読む

和辻 哲郎

「帝国大学新聞」1933(昭和8)年1月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,919 字 · 4 页

青空文庫

『青丘雑記』は安倍能成氏が最近六年間に書いた随筆の集である。朝鮮、満州、シナの風物記と、数人の故人の追憶記及び友人への消息とから成っている。今これをまとめて読んでみると、まず第一に著者の文章の円熟に打たれる。文章の極致は、透明無色なガラスのように、その有を感ぜしめないことである。我々はそれに媒介せられながらその媒介を忘れて直接に表現せられたものを見ることができる。著者の文章は、なお時々夾雑物を感じさせるとはいえ、著しくこの理想に近づいて来たように思う。これは著者の人格的生活における近来の進境を物語るものにほかならぬ。そうしてそのことを我々はこの書の内容において具体的に見いだすことができるのである。

著者はこの書の序文において、「悠々たる観の世界」を持つことの喜びを語っている。この書はこのような心持ちに貫かれているのである。そうしてまさにその点にこの書の優れたる特色が見いだされると思う。

観照もまた一つの態度としては実践に属する。それは時にあるいは有閑階級にのみ可能な非実践の実践として、すなわち搾取者の奢侈として特性づけられ得るであろう。あるいはまた怯懦な知識階級の特色としての現実逃避であるとも見られるであろう。