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せいしゅん
青春
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,799 字 · 16 页
二人の睨まれるのは、時もあろうに音楽の時間であり、ひともあろうに音楽の先生からであった。赤い綾木綿を張ったベンチにズラリとかける。先生はピアノの前にいられる。それから挨拶のためのコードが弾かれるまでの一分間。紫紬の羽織を着た先生の目が席を一わたり見まわすとき、いつもそこには何ともいえないいやな息苦しいような沈黙と緊張があるのであった。そのままピアノが鳴り出せば、ほっとして発声の練習に入るのであったが、さもないときは、焦立たしさを仄めかした眉目の表情と声の抑揚とで、その生徒の名がよばれ、その髪はもうすこし何とかならないんですか、といわれるのであった。
二人の生徒のその髪がどうにもならないように、その長身の先生を崇拝する心持も、どうしようもないものだった。
この先生のおかげで、私は四年、五年と二年を苦しいなかにも知識のよろこびをもって成長することが出来た。この先生が学課の単調さに苦しんでいる私の知識慾に流れ口を見出すきっかけをつけてくれられた。ヘッケルの宇宙の謎という本を教えて、文学以外の分野へ読書の力をひろめても下すった。
こういう時代を思いかえすと、私は震災で焼けてしまった昔のお茶の水の校舎の庭のいろいろな隅や石段を、懐しさに堪えぬ心で記憶の裡に甦らす。