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せいしゅんのぎゃくせつ

青春の逆説

織田 作之助

在线阅读織田 作之助《青春の逆説(せいしゅんのぎゃくせつ)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,593 字 · 325 页

青空文庫

テーブルに両手をついた時、豹一ははっとした。掌に黒い墨のようなものがついていたのだ。はっと手をひっ込めた拍子に、(鉛筆の粉で汚れたのだな)と、思った。つまり、夢中になって多鶴子の尾行記を書いた証拠なのだ。豹一は顔もようあげず、痛い気持でしきりに掌をズボンの膝でこすっていた。

何を飲むかときかれたので、豹一は珈琲だと答えた。多鶴子はボーイを呼んで、

「お珈琲にお菓子、……それから、私はクリーム、……クリームはなに……?」

「ヴァニラだけでございます」

ボーイが言った。

「それでいいわ」注文し終ると、多鶴子ははじめてゆっくりと豹一を観察した。

そして驚いた。はいって来た時の、おかしいほど真赤になったとはてんでちがって、いま豹一はいくらか蒼ざめた顔にむっとした表情をうかべていた。じろりと多鶴子を見あげた。その眼の色に、かすかな敵愾心さえあった。(なんという表情の変り易い男だろう)多鶴子はあきれてしまった。

実は、なにごとにつけてもけちをつけたがる豹一の厄介な精神は、全く莫迦げたことだが、この時も多鶴子がアイスクリームを注文したことに憤慨していたのである。豹一に言わせると、寒中アイスクリームを食べるのは気障だというのである。