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あおふくのおとこ

青服の男

甲賀 三郎

「現代」1939(昭和14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,026 字 · 29 页

青空文庫

死因も全く病気という事だし、之以上突つく必要もないと思うが、尚君、念の為、昨日と今日の信造と卓一の足取りを洗って見て呉れ給え。当の信造にはもう何事もないようにいって安心を与えて置いたから、仕事はやりいゝだろうと思う」

望月刑事は命を受けて、先ず第一に茅ヶ崎の駅に出かけた。夏ならば兎に角、十二月という月では乗降客も少いので、駅員が覚えてはいないかと思ったのだった。

果して駅員は覚えていた。

昨日の朝十時三十三分着の下り列車で、鳶色の服を着た信造らしい青年が下車した。それから同日の午後六時三分発上り列車の発車間際に、やはり鳶色の服を着た信造らしい青年が駆けつけて来て、アタフタと乗り込んだ。何だかひどく不機嫌で、切符売場で一寸駅員といいやったりしたという事である。それから今日の午後二時九分で、同じ服装をした青年が下車した。と、之だけの事で、昨日以来の小浜信造の足取ははっきりした。

所が、青色の服を着た北田卓一の事はさっぱり分らなかった。午後六時までは確実に彼は別荘に来なかったから、六時以後、終列車までに来なければならない筈である。午後六時六分着から午前零時三十四分着まで、合計九本の列車があるが、どの列車からも卓一らしい青年は下車しなかった。