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ひじょうのあい

非情の愛

豊島 与志雄

「中央公論」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页

青空文庫

彼等信仰者たちは、やはり祈りに来るであろうか。きっと来るに違いない。ところで、そこにあるのは何か。鏡か木彫か石彫か陶器か、それも恐らくは下らないもので、つまりは一塊の石に過ぎないだろう。その一塊の石に、彼等はやはり祈念を凝らすだろう。そうなると、一塊の石に人の祈念がじかに連結する。これはどういうことだ。原始時代に立戻っただけのことだというのは、一応の解釈に過ぎなくて、救済にはならない。」

「救済しなくてもいいよ。」と僕は焼酎を味わいながら言った。

「赤い鳥居の列に、黄色い銀杏の葉が散りかかって、その下を若い女がしとやかにくぐってゆくところなんか、いいじゃないか。」

そういう情趣にはまるで無関心のように、秦は卓上に銀杏の葉を並べ続けた。

「いや、銀杏の葉は、平地に散っても綺麗だ。救済するには、その一塊の石を、取り除くことだ。」

「そうだ。それを僕も考えてる。」と波多野は応じた。「然し、石を取り除き、地ならしして、平地にしてしまっても、そこにはまた、靄が立ちこめるように、一種の濛気が立ちこめてくるかも知れない。偶像を破壊した後にも、まだ、霊界とでもいわれるものが残るからね。