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おんがくかいのめいしん

音楽と生活 兼常清佐随筆集

兼常 清佐

兼常清佐『音楽と生活 兼常清佐随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:音楽界の迷信、勝太郎、久野女史をいたむ、ニッポン音楽、流行唄、レコード蒐集。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,475 字 · 61 页

青空文庫

あるいは和声やコントラプンクトや、曲全体の構造などについてはまだ多少学ぶべき余地もあったであろう。ましてピアノ音楽史上の思潮を考え、自分の立脚地を明かにする事については、更に幾多の研究を要したであろう。

例えばベートーヴェンのゾナーテが果して女史の弾いたように弾かれるべきものかという事については私にはよほど疑問がある。私は一九二二年四月二十八日にエミール・ザウエルの『月光曲』を聞いた。また近頃或る雑誌でそのザウエルが久野女史の『月光曲』を聞いて大に賞賛したという事を読んだ。もちろんこの老巨匠は女史の天才と素質に対してあらゆる褒辞を惜まなかったであろう。しかし女史の『月光曲』そのままを優れたピアノの演奏として賞賛したとは、私にはどうしても受け取れない。ザウエルは恐らく女史の望み多い将来に対してブラヴォーを叫んだのであろう。私共が女史の天才と熱情とに期待したものも全くそれに外ならない。

女史はニホンでの一切の悪夢からさめて、まず此処に一精進を試みるはずであった。もし女史をしてそれを拒ましめるものがあったならば、それはニホンで不健全にかち得た盛名である。