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おんぱのさつじん

音波の殺人

野村 胡堂

「新青年」1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,399 字 · 30 页

青空文庫

岡崎敬之助はその友達で、少し三枚目畠の男ですが、案外したたかな魂の持主で、何時の間にやら若菜を面白がらせる術を体得し、藤井薫の地位を少しずつ侵略して居たのです。

こんな社会の消息なら、誰よりもよく諳んじて居る千種十次郎は、いろんな事情を考え乍ら、乗ったタクシーの尻を引っ叩くような心持で、代官山の長島博士の門口へ着きました。

木立の蔭、研究室と覚しきあたりには、赤々と灯が点いて何やら人の気配もします。

もう一時を過ぎたでしょう。

千種十次郎は、妙な期待に軽い興奮を覚え乍ら、二度、三度、呼鈴を押しました。

玄関の扉は明かずに、

「どなた?」

変なところから声を掛けた者があります。振り返ると、お勝手の窓が開いて、六十恰好の婆さんが、臆病そうな顔を出して居るではありませんか。

「関東新報の者ですがネ、先生に一寸お目にかかり度いと、思いますが――」

千種は延び上りました。

「もう一時過ぎですが――明日の事にして下さいませんか、先生もお休みになったかも知れません」

「いや、まだ起きてますよ、あの通り灯が点いて、――何んか変な音がして居るじゃありませんか、大変な事が起ったんですから、一寸でも逢い度いと申上げて下さい」