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おんぱのさつじん
音波の殺人
野村 胡堂
「新青年」1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,399 字 · 30 页
「――――」
婆やさんは渋りました。門灯の光で、千種の風体には怪しいところは無いと見た様子ですが。何分にも遅過ぎます。
「警察の方が見えましたか」
「いえ」
婆やさんは胡麻塩の頭を振り乍らも、そう言われると、事件の重大性に脅えた様子です。
「何んだ、婆や、――客が来たのか、少し遅いな、何? 新聞記者? なら逢ってやろう」
長島博士は婆やに指図して玄関の扉を開けさせました。
「先生、遅くなってすみませんが、少し重大な事が起ったんです」
千種は名刺を出しましたが、長島博士はそれをチラリと見ただけ、受取ろうともしません。学者らしい無頓着さです。
「此方へ入りたまえ」
導かれたのは、裏の方に突出した研究室、広さは三間四方位あるでしょう。真ん中に明るい飾電灯が下って、その上幾つかのスタンドまで灯け、部屋の中の物の影も作らせないほど明るく、得体も知れない巨大な器械が、その部屋の面積の大部分を占めて、頑張って居ります。
「――――」
千種十次郎も、何んとなく恐怖とも、不安とも付かぬものを感じました。部屋の中の空気がラジオの真空管の中のように、一種の微光を帯びて震動し、馴れない千種の、不安と焦躁をかき立てるのです。