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かお

顔

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,099 字 · 23 页

青空文庫

「さあいい子は暫くこっちへ来てお遊び。ガーガーが、フランツ来い来いと呼んでるだろう」

裏は空地で、余りよく耕されていない礫まじりの甘藍や蕪(かぶ)の畑、粗末な板囲いの家畜小屋があった。小屋の中には五匹の親子づれの黒い粗毛の豚がいた。三羽の鵞鳥は、フランツの前を走って逃げながら、喧しい声で鳴き立てた。フランツは、乾草熊手に跨って黒い捲毛をふり立ててその後を追い廻す。

ルイザは、よく夫のハンスに云った。

「お前さんはどう思いなさるか知らないが、私はあのフランツは苦労の種ですよ。あんな小さいうちっから、あんな人に気をつけられる児というものを見たことはありゃあしない。それも、何で見られるのか判れば私だって気が楽だけど」

夫婦が、店に続く奥の小部屋で木の卓上に向い合い、こんな話をする時分、フランツは、彼の藁床でもうぐっすり寝ついていた。

ハンスは、黙って、長いこと陶器のパイプを噛む。やがて持ち前の重い口調で云った。

「時が来れば、わかるだろう。――まるでの案山子(かかし)でもなさそうじゃないか――」

ルイザは、赤い更紗のカーテンで半分かくされているフランツの臥床を眺めた。