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かお

顔

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,099 字 · 23 页

青空文庫

「――俺の大祖父はやっぱりあのちびのように黒い眼をしていたっけが――死ぬ時分には村の書記で、名も憶えられる者になった」

ルイザは、黙って疑わしそうにちらりとハンスの顔を見る。二人はそのまま黙り込んだ。四辺が余り森として、夜の空気の中にフランツの寝返り打つ気勢さえしないと、ルイザは突然訳のわからない不安に掴まれた。彼女は遽しく、而も跫音を忍ばせて、カーテンの傍によった。そして、そおっとフランツの寝顔を覗き込んで、また自分の腰掛けに戻る。一寸気がつかない間に、何処へかいなくなってでもいはしまいかという烈しい意味のない懼(おそ)れが、ルイザを焼くような思いで腰掛から追い立てるのであった。

不思議な心配、ルイザの絶え間ないぼんやりした恐れの間に、フランツは段々成長した。

フランツは、小学を終る前の年、堅信礼を受けた。

その年の万聖節の夜の彌撒(ミサ)は、ルイザにとって、婚礼の時のような晴がましい亢奮を感じさせた。フランツが、同じときに信徒名を授けられた少年と一緒に、初めて聖歌合唱をすることになったのであった。

定りの礼拝と祈祷とがすみ、教父がきらびやかな法服の裾を引いて聖壇の前の椅子につくと、ルイザは、我知らず胸に下げた数珠を握りしめて正面を見つめた。