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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
ずうっと沖合いから押し寄せて来るガスは、海岸へ来ると二手に分れる。
一方は、そのままY岬へ登って馳け、他の一方はずうっと迂回(うかい)して、Y岬とは向い合ったL崎の端(はな)から動き出す。
そして、その二流はちょうどS山の上で落ち合って、ずうっと奥へ流れ去る。これは、平地を抱えて海まで延びている山の地勢の、当然な結果ではあるのだけれども、その潮路に当るところは堪らない。
下の部落にそんなにひどくないときでも、山々を流れて行く霧は、灰色に濃くかたまって音のしそうな勢に見える。
それ故、切角春になると直ぐイレンカトムの小屋は、日の目も見えないほど、霧に攻められなければならなかった。
今日も霧、明日も霧。
潮気を含んで、重く湿っぽいガスは、特有のにおいを満たしながら、茅葺き小屋のらんまで透して、湿らせる。
ちょうど、梅雨期のような不愉快さ、不健康さを弱り目に受けて、イレンカトムは、始終頭痛がしていた。寝ても覚めても、耳の中で、虫が巣くいでもしたような、ジージー、ブーンブンと云う音がする。
体中から、精、根が抜け切ってしまったように思う彼は、過敏になって、自分の飼犬の姿にさえザワザワとすることがある。