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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
「豊やーい、豊やーい、豊坊が……」
何とか云う声が聞えた。彼が忘れたくても忘られない名にハッと注意を引かれて、傍を見ると、二人の知己(しりあい)が自分の帯際をしっかりと捕えて、足を踏張りながら、後へ後へと引っぱっているではないか。
イレンカトムはびっくりして、一体どうしたのだと訊くと、どうしたどころではない、お前はもう少しで海に溺れる処だったのだと、通りすがりの彼等が、暴れる彼をようように押えつけた始末を話して聞せた。
その訳を聞いたとき、イレンカトムは、涙を流さんばかりにして、コロポックル奴に騙(だま)されたのを口惜しがった。
昔は、屈強な若者で、自分の手から逃げる獣はないとまで云われた自分が、小人風情に侮られて、惨めな態(ざま)を見られなければならないことは、彼にとっていかほどの苦痛であったか分らない。
二人に送られて家に帰ったイレンカトムは、神聖なイナオ(木幣)の祭場所に永い祈念を捧げた。
こんなことさえあったので、イレンカトムのコロポックルは誰知らぬ者のないほど有名になってしまった。
なかには、親切に、魔祓いのお守やら、草の根、樹の皮などを持って来てくれる者もある。