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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
「けさはよっぽどおくれて?」
「一時間ばかりおくれた」
青年のいる室へ入って、重吉は、簡単に挨拶すると、そこに来ている雑誌の封をあけて目をとおしはじめた。
「お着かえにならないの」
「…………」
重吉は、洋服のまま、どうしたのか、ひるの弁当があまっていたのを鞄から出して、先ずそれをたべはじめた。
「どうして?――こっち上ればいいのに」
「いいんだ」
つとめて、ひろ子は若い又従弟と口をきいて食事をすませた。重吉は、すぐ、
「あがるよ」
鞄をもって、二階へ登って行った。とりのこされたひろ子は体じゅうがよじれるように苦しくなった。
行ってみると、重吉はぬいだシャツや服を机の上につみ上げて、そのよこのところに本をのせて見ていた。ひろ子は、みんなどけてそれを衣紋竿につるした。
「――ね、どうなすったの?」
「どうもしない」
「いいえ。こんなのあたりまえじゃないわ……いつものようじゃないわ。ね、どうして?」
重吉は椅子の上で顔を横に向け、ひろ子を見ないようにしている姿勢のまま、
「どうもしない。きょうから、何でもみんな自分ですることにきめたんだ」
と云った。
「…………」
「すっかり、考え直したんだ。