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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

何の気なく、してくれるとおりして貰っていたんだが。俺も甘えていたんだ。――わるい亭主の見本だと思われているとは思わなかった」

冗談よりほかの意味はありようもなく云った言葉が、重吉をそんなに傷けたことが、ひろ子をおそれさせた。

「御免なさい。わたしふざけて云ったのに――」

「――しかし、ひろ子はしんではおそらくそう感じているところがあったんだ。……世間には良人のことは何でもよろこんでする細君もあるんだろうが。――自分のことを自分でするのはあたり前なんだから、もうすっかり自分でする――監獄じゃそうしてやって来たんだ」

ひろ子は、思わず重吉の両肩をつかまえた。

「変よ、監獄じゃ、なんて! それは変よ!」

涙をあふらしながら、ひろ子は恐怖をもって感じた。どういう複雑な動機からか、ともかく重吉は、ひろ子が想像出来るよりも遙かに深い幻滅のようなものを、二人の生活について感じたのだ、ということを。ひろ子は絶望感からそのまま立っていられなくなった。前の畳へ崩れこんで重吉の膝の上に頭を落した。

「考えて頂戴。あなたのことはあなたがなさい、というような心持で、どうして十何年が、やって来られたのよ」