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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

ひろ子のこの苦痛の深さに、一心に暮した十二年の歳月が折りたたまって投影しているとおり、重吉の索漠たる思いにも、同じ長い年月に亙って生活して来た彼のひどい環境の照りかえしが決してないと、どうして云えよう。

閃く稲妻のようにひろ子の心を一つの思い当りが走った。それが、泣き膨れたひろ子の精神の渾沌を一条の光となって射とおした。ひろ子は、重吉の手をとって、

「ね、云ってもいい?」

ときいた。

「いいさ」

「わたしが、あなたの気もちを傷けたのは本当にわるかったわ。どうか許して頂戴。――そしてね、あなたは、あんなに永い間牢屋に暮していらしたでしょう? あすこには、決して、あなたに対する絶対の支持というものは存在しなかったのよ。いつだって、二重の、いつでも逃げ腰の親切か、さもなければはぐらかししかなかったのよ。そうでしょう?」

「…………」

「絶対の支持、ということがわかる? その幅の中で、どんなに憎まれ口をきいたにしても、馬鹿をしたにしても、それでも、なお絶対の支持であるという、そういう絶対の支持がわかる?」

ひろ子は泣き泣き云った。

「ひろ子の支持は、そういう絶対の支持だということがわかる?」