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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

そこを歩くひろ子は、あんまり行く先がはっきりしているのと、いそいそしている自分があらわなのとを、はにかんでいるのであった。

行手の木立の間に、それらしい新しい建物が見えるところへ来た。すると、左手の草むらのうしろから、

「ひろ子さん」

大きい声で呼ぶ女の声がした。ひろ子は、道の上に立ちどまって見まわした。

「ここです、お待ちしていたの、御弁当をたべながら――」

あわてて立つ拍子にとりまとめた紙包を、まだ胸の前にたくしこみながら、小さい男の子をつれた瀬川牧子が、高い草の間から歩いて出て来た。

「まあ。――どうして? まち伏せ?」

牧子は数年このかた埼玉の町に住んでいて、滅多に会うことも出来なかった。

「思いがけないところから現れたのねえ」

「よかったわ、うまくつかまえられて」

上機嫌で牧子は男の児に、

「純ちゃん、これがおまくのおばちゃんよ、覚えている?」

と云った。三つぐらいの純吉が遊びに来たとき、ひろ子はその子と小さい枕をぶつけ合って遊んだ。それが大変気に入って、おまくのおばちゃんという名をもらったのであった。

「きょう、こちらへいらっしゃるとお友達から又聞きいたしましてね。