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ぐるめにおくる
食魔に贈る
岡本 かの子
「中央公論」1932(昭和7)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,619 字 · 20 页
いよいよ終りが来た。その時彼は好みの白葡萄酒を身体にかけて貰いヨセフ料理店の牡蠣料理を取寄せて眼の前で友人に食べて貰うのを眺めて満足して死ぬ。彼の最後のあきらめはこうである。「おれも一生かなりよく食った――」
マデレーン寺院の片頬を染めた春の西日が全く落ちて道路につぶつぶの燈と共に食酒を飲んだあとの男女の群が華やかに浮出るころ、もう早目の食道楽の客がラリュウの右側の部屋に二人三人席を占めていた。
彼等は首尾よく自分の定席に就けて満足そうだ。天鵞絨の腰掛けへの腰の埋み加減、寛闊な足の踏みはだかり加減も気に入るように調節した。食卓は心持ち身近に引く。そこで指と指を組み合せ馴染の給仕に今日の料理場の内況を逐一聴き取ろうとする気構えだ。だが相憎マネージャアのヂュプラが店に姿を現わしているなら余り委しい様子は聞けない。食通客に馴染の給仕というものはもう店の召使いでは無い。客の間諜として店に入り込んでいるようなものだ。彼は客に料理場の秘密を内通して仕舞う。今日の仕込みの鰈は生きが悪かったとかコック頭とコックと喧嘩して青豆を茹で過ぎたとか、とかく店の為にならない話だ。