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もちのタタリ

餅のタタリ

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第一号」1954(昭和29)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,869 字 · 18 页

青空文庫

どれ、その餅を見せてごらんなさい」

「そうはいかないよ。これは証拠の品だから」

「バカな。その餅を奪って証拠を消すようなことをすれば私が犯人ですと白状するも同然じゃないか。皆さんとても知らない筈はなかろうが、餅はツキ方によって、それぞれ多少はちがうものだ。その餅を見れば、どんな人の食う餅か、多少は分らぬことはない。見せなさい」

そこで一個の餅を受けとり手にとって充分に調べた助六は、思わず顔がくずれるほど安心して、

「これは町の人の食う餅だ。むろん私の餅でもないし、近村の農家の餅でもない。なぜかというと、この餅は餅米のツブだらけで、粗製乱造の賃餅だ。自家用にこんな粗製乱造の餅をつくることはないものだ。私が犯人でないというレッキとした証拠を見せてあげるから、待っていなさい」

助六は自宅へ走って帰って、五ツ六ツ餅をとって戻ってきた。

「ごらんなさい。これが私の家の餅だ。この餅を同じように焼いてお見せするから、泥棒の餅とくらべてごらんなさい。中を割って、ツキぐあいを見れば一目でわかる。さ。手にとって、中を割ってごらんなさい。一方はツブだらけ、私のにはツブがなく、ひッぱればアメのようにのびる」