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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

冬になると瓦斯の出が悪いそうで、私の家では釜の下には薪を使うことにしています。で彼はその竈の前に屈みこんで、薪の火にあたりながら、田舎の土間と違ってすっかり板の間になっていて、その上に竈を据えて薪を焚く東京の台所に、感心したりなんかしていたそうですが、そのうちに、片隅に転ってる一本の牛蒡を取上げて、不思議そうに云い出しました。

「これは何になさるんですか。」

「それ、牛蒡じゃありませんか。」と妻は答えました。「晩のお惣菜ですよ。」

「これだけでですか。」

「ええ。なぜ。」

「それでも、先生と奥さん……、」と順々に彼は二人の子供から女中から自分自身まで数えて、「みんなで六人でしょう。」

「ええ、六人のお惣菜ですよ。それをあの里芋と一緒に煮るのですよ。」

「へえー、そうですか。」

そして彼はその一本の牛蒡と向うの五合ばかりの里芋とを、如何にも不思議そうに見比べて、さも感心したように云いました。

「東京の暮しはままごとのようですね。」

そのことを後で妻は私に話して、こうつけ加えました。

「屹度大変倹約だと思いなすったんでしょう。でも、うっかり冗談も云えませんので、挨拶の仕様に困りましたわ。