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こうでん
香奠
豊島 与志雄
「時流」1925(大正14)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页
」
この大変倹約だとか、うっかり冗談も云えないとかいうことについては、まるで嘘のような話があるのです。前に申すのを忘れましたが、平田伍三郎が私の家に来た翌日の晩のことでした。その頃私は胃が悪くて昼食をぬきにしていましたので、晩にはいつもごく腹が空いていました。その晩もやはりそうでしたから、何杯たべたかしらと妻に聞きながら、「昼飯を食わないとひどく腹がすく、」というようなことを云いました。すると平田は喫驚したように、「昼飯をあがらないのですか、」と聞くのです。「ええ、会社の高い弁当代なんかとても払えないから、二度しか飯は食わないんです。三度の飯も食えないとはこのことですよ。」所が、笑いながら云ったその言葉を、彼は本当にとったものと見えます。翌日彼は妻に向ってこう云ったそうです。「先生もお気の毒ですね。会社の弁当が高かったら、パンでも持ってお出なさればよいのでしょうに。」――そのことが、私の家の笑い話の一つとなりました。
そういうことがあったものですから、牛蒡一本と里芋五合との件について、妻が前申したような風に解釈したのは無理もありません。然し私はそれを聞いて、彼の――平田伍三郎の――気持がはっきり分って、自分でも一寸変な心地になりました。