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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
「もう雷様が鳴らなけりゃあ離れない、雷様が」と河合が圧しつけるような低い声で言う。
「謝ったよう! 謝った」と女は泣くように叫ぶ。一番年量の、多分高谷の姿でも真似たつもりだろう、髪を廂に結うて、間色のリボンを付けたのが、子を負ったまま、腰を屈めて、愛嬌の深い丸顔を真赤にしてしきりに謝っている。
見ると女はどうしたものか火燈口から右の手を河合に取られている。河合はその手をギュッと握って掌へ筆で何か描こうとしている。
「痛いじゃあないか、謝ったからよう! あれ――あんなものを書くよう……」
雨はまた一としきり硝子窓を撲つ、淋しい秋の雨と風との間に猥りがましい子守女の声が絶えてはまた聞えて来る。
私の机の下の菰包みの蔭では折ふし思い出したように虫の音がする。
ふと見ると便所の方に向いた窓の硝子に人影が射したので、私はツイと立って軒伝いに冷たい雨の頻吹を浴びながら裏の方に廻って見ると、青い栗の毬彙が落ち散って、そこに十二三歳の少年が頭から雫のする麦藁帽子を被ってションボリとまだ実の入らぬ生栗を喰べている。
秋もやや闌けて、目黒はもうそろそろ栗の季節である。
九