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こうげんのたいよう

高原の太陽

岡本 かの子

「むらさき」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,558 字 · 17 页

青空文庫

この青年は非常にエゴイズムなのではないかと、ふとかの女は思った。

でなければ、それ以上に抜け切った非常に怜悧な男なのではないかとも思った。

でもこう話しているうちに、決して男性の体臭的でない明るいすがすがしい気配が、青年の顔色や態度に現われて来た。かの女は、もしその気配に自分の熱情が揺がされでもしたら、自分が何か非常に卑しい軽率な存在にでも見えだすかも知れない――そう思うとかの女はかすかなうそ寒いような慄えに全身をひきしめられた。

「ね、あそこをご覧なさい」

青年の指差したのは、真向いの堤に恰も黄金の滝のように咲き枝垂れている八重山吹の花むらであった。陽は午後の円熟した光を一雫のおしみもなく、その旺溢した黄金色の全幅にそそぎかけている。青年は画家が真に色彩を眺め取る時に必ず細める眼つきを、そちらへ向けながら沁々云った。

「あの山吹の色が、ほんとうに正直に黄いろの花に今の僕の心象には映るのです。僕の心が真に対象を素直にうけ入れられるようになったのですね。以前僕の描いた山吹の色は錆色でした。それが渋いとか何とかいいかげんなニヒルの仲間達に煽てられたもんですが、詰らないことです。