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たかはまさんとわたし
高浜さんと私
寺田 寅彦
「現代日本文学全集 月報40号」改造社、1930(昭和5)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,861 字 · 4 页
高浜さんとはもうずいぶん久しく会わないような気がする。丸ビルの一階をぶらつく時など、八階のホトトギス社を尋ねて一度昔話でもしてみたいような気のすることがある。今度改造社から「虚子の人と芸術」について何か書けと言われたについて、その昔話をペンですることにする。
三十余年前のことである。熊本の高等学校を出て東京へ出て来るについて色々の期待をもっていたうちでも、一つの重要なことは正岡子規を訪問することであった。そうして、着京後間もなく根岸の鶯横町というのを尋ねて行った。前田邸の門前近くで向うから来る一人の青年が妙に自分の注意を引いた。その頃流行った鍔の広い中折帽を被って縞の着物、縞の羽織、それでゴム靴をはいて折カバンを小脇にかかえている、そうして非常にゆっくり落着いて歩いて来るのである。その時私は直感的に、これが虚子という人ではないかと思った。その後子規の所で出会ってその直感の的中していたことを知ったのである。中折帽に着流しでゴム靴をはいて、そしてひどく考え込んだような風でゆっくり歩いて来る姿をはっきり覚えているように思うのであるが、しかし、これはよくある覚えちがいであるかもしれない。