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かみのけ

髪の毛

佐々木 邦

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,242 字 · 13 页

青空文庫

と沖君が訊いた。

「何れ?」

「いや、其方さ」

「これは猫の子を飼っているものだから引っ掻かれたのさ」

と言って、米沢君はポケットへ入れてしまった。

「五尺二寸もある女猫だろう?」

「馬鹿を言え」

「ハッハヽヽヽ」

と秋月君は遠くの方で笑っていた。

それから又或送別会の時、

「何うだね? 今度は中川君を引っ掻かせようじゃないか?」

と沖君が味を占めて発起した。

「中川君は考え物だよ」

「何故?」

「あの細君じゃ突如喉笛へ食いつくから、命が危い」

と秋月君は中川夫人を虎に見立てゝいる。

「まさか。しかし余程霊妙な秘伝と見えるね。一体何うするんだい?」

「うっかり伝授すると、君は無暗に応用するからね」

「いや、大丈夫だよ」

「余り的確で、発明者の僕さえ驚いているんだからね」

「然う勿体をつけられると、益※(二の字点、1-2-22)聴きたくなる。二次会に附き合うから是非教えてくれ給え」

と沖君は条件をつけた。

「それじゃ秘訣を伝授するが、僕はもう責任はないぜ。至極簡単なんだ。芸者の髪の毛を二三本貰って、白シャツのボタンへ絡ませて置くんだよ。多い程宜い。細君が明日取り換える時に発見するから、大騒ぎになる」