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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
であった。
「お母さんを安心させて上げた方がいいよ」
殿村は相手を恥かしがらせはしないかとビクビクしながら、置土産のつもりで忠告めいたことを口にした。
「ウン、分っている。併しマアうっちゃって置いて呉れ給え。自分のことは自分で仕末をつけるよ」
大宅がピンとはねつけるように、不快らしい調子で答えたので、殿村は黙ってしまった。
二人は黙々として、薄暗くしめっぽい森の中を歩いて行った。
鉄道線路がチラチラ見えている位だから、無論深い森ではないけれど、線路の反対側は奥知れぬ山に続いていて、立並ぶ木立が、どれも一抱え二抱えの老樹なので、さながら大森林に踏み入った感じであった。
「オイ、待ち給え!」
突然先に立っていた殿村が、ギョッとする様な声で、大宅を押し止めた。
「いやなものがいる。戻ろう。急いで戻ろう」
殿村は脅え切っていた。薄暗い森の中でも、彼の顔色が真青に変っているのが分った。
「どうしたんだ。何がいるんだ」
大宅も相手のただならぬ様子に引き入れられて、惶しく聞き返した。
「あれ、あれを見給え」
殿村は逃げ足になりながら、五六間向うの大樹の根元を指さした。
ヒョイと見ると、その巨木の幹の蔭から、何ともえたいの知れぬ怪物が覗いていた。