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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

その後に立っている国枝予審判事は知らなかったけれど、この慌しい闖入が好意の訪問であろう筈はない。彼女は咄嗟の間に凡てを悟ってしまった。

「アッ、いけない」

突然殿村が雪子の身体に飛びついて、その手から青い小さなガラス瓶をもぎ取った。彼女はどこで手に入れたか、万一の場合に備えて毒薬を用意していたのだ。

毒薬を奪われた娘は、最後の力尽きて、くずれる様に倒れ伏、物狂わしく泣き入った。

「国枝君、今朝絹川雪子が、部屋の中で消え失せてしまったことを聞いているだろう。あの部屋から姿を消したこの女は、素早くも、療養所の入院患者になりすましていたのだよ」

殿村が説明した。

「だが、待ち給え。それは少しおかしいぜ」

国枝氏は何か腑に落ぬらしく、絶え入らんばかりに泣き入っている女を見おろしながら、

「絹川雪子は犯罪の行われた日は一度も外出しなかった筈だ。それに、被害者の山北鶴子は、雪子にとって恋の敵でも何でもない。大宅は完全に雪子のものだったのだからね。その雪子が何を好んで、命がけの殺人罪などを企てたのだろう。どうもおかしいぜ。この女は、神経衰弱の余り、変な幻想を起しているのではないかしら」