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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
「それにしても、僕にはまだ呑み込めない点があるんだがね。鶴子が無蓋貨車に隠れて、逃げ出したのは分っているが、その行先が高原療養所だということを、君はどうして推察したんだね」
鶴子の自殺騒ぎで、折角事件を解決した楽しさを、滅茶滅茶にされた殿村は、苦い顔をして、ぶっきら棒に答えた。
「それは午前九時発の貨物列車が、丁度療養所の前で、操車の都合上ちょっと停車することを知っていたからだよ。材木の間に隠れたままU駅まで行ったのでは、貨物積卸しの人夫に発見されるおそれがある。鶴子さんはどうしてもU駅に着く前に貨車から飛び降りる必要があった。それには療養所の前で停車した折が絶好の機会ではなかろうか。しかも、降りた所には、高原療養所が建っている。病院というものは、犯罪者にとって、実に屈強の隠れがなんだよ。探偵小説狂の鶴子さんがそこへ気のつかぬ筈はない。僕はこんな風に考えたんだ」
「なる程、聞いて見ると、実に何でもない事だね。併し、その何でもない事が、僕や警察の人達には分らなかったのだ。エーと、それからもう一つ疑問がある。鶴子が自宅の机の抽斗に残して置いた、Kの署名のある呼出状は、無論鶴子自身が偽造したものに違いないが、もう一つの証拠品、例の大宅君の居間の縁の下から発見された血染めの浴衣の方は、一寸解釈が難しいと思うが」