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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
森を出離れて、蓬々と雑草の茂った細道を歩いて行くと、叢の中から、ムクムクと、又しても血みどろの大犬が姿を現わし、人に驚いたのか、一目散に逃げ去った。
「オイ、あいつはさっきの奴と毛色が違うぜ。揃いも揃って、この村の犬が土竜を喰うなんて変だぜ」
殿村は、犬の出てきた叢を分けて、その蔭に何か大きな動物の死骸でも横たわっているのではないかと、ビクビクもので探し廻ったが、別段猛犬の餌食らしいものは見当らなかった。
「どうも気味が悪いね。引返そうか」
「ウン、だが、ちょっとあれを見給え。又もう一匹やって来るぜ」
一丁計り向うから、線路の土手に沿って、雑草の中を見え隠れに、なる程又毛色の違う奴が歩いて来る。チラチラと草に隠れて、全身を見ることが出来ぬ為、非常に大きな動物の様にも、又、犬ではないもっと別な生物の様にも感じられて、ひどく不気味である。
道はとっくに部落を出離れているので、あたりは人気もない山の中、狭い草原を挟んで、両側から迫る黒い森、刃物の様に光る二本の鉄路、遙かに見えるトンネルの口、薄暗くシーンと静まり返った、夢の中の景色だ。その叢を、ゴソゴソと近づいて来る妖犬の姿。